U2ボノからのメッセージ

 

 新しいミレニアム(千年紀)の夜明けが、ついにやって来た。日の昇る東に位置する日本は、新時代への幕開けを最初に迎えた経済大国であり、2000年代最初の先進8カ国(G8)の議長国として、まさに世界をリードしていく立場になった。こんな貴重なタイミングには、世界の期待に応えられるビッグなアイデアが必要だろう。私は日本の皆さんに、それにふさわしい、とっておきのニュースをお知らせしたい。

 それは、「ジュビリー2000」と名付けられた、最も貧しい国々が最も富める国々に負っている返済不能な借金を一度すべて帳消しにしよう、というキャンペーンである。これは世界にとって、とりわけビッグなアイデアである。というのも、もし今年一年の間にこのアイデアが支持を集めたなら、一日1ドル以下という極貧状態の約10億もの人びとの生活に、大きな変化を及ぼすことが可能となるからだ。

 96年に英国の非政府組織(NGO)が始めたこのキャンペーンの成果により、昨年のケルン・サミットで、先進国と発展途上国の関係を永久的に変える一つの原則が樹立された。それは、貧しい人びとの食事や教育、予防接種といった基本的生活権を犠牲にした古い借金の返済を、明確に否定したのである。

 もし、先進各国と世界銀行、国際通貨基金(IMF)がこの原則を現実の行動に移せば、返済免除になった金額の用途に関する厳しい条件つきのもとで、1,000億ドル以上の債務が救済されることになる。同キャンペーンが求めている救済額はさらに2倍の約2,070億ドルであるけれども、半額の救済が実現すれば、当面私たちにとって記念すべきできごととなろう。わずか1年前には全く実現への希望が持てなかったこの運動は、今では各国の市民や政治家の意識を変えるばかりか、以前なら想像だにできなかった莫大な金額へのかぎを握ったのだ。

 ジュビリー2000キャンペーンが成功しつつあるのには、理由がある。21世紀の到来という、きりの良さ。そして、一回限りの全面帳消しという分かりやすさ。こうした大きなアイデアでなかったら、新しい夜明けは決して訪れず、夢から目覚めた時には自己満足と「二日酔い」が残っただけで、運動は終わってしまっただろう。おかげで、ローマ法王からデヴィッド・ボウイら人気アーティストまで、アフリカのタンザニアから南米のボリビアまで、米ハーバード大の教授から英コメディアンの「ミスター・ビーン」ことローワン・アトキンソンに至るまで、異色の大連帯が出来あがった。

 同キャンペーンは累積債務を、社会正義の問題と位置づけた。先進国からの借金の多くが、本来使われるべき所に投じられず、東西冷戦下の戦略で、旧ザイールのモブツ元大統領のような独裁者を維持するために使われた。今日のグローバル経済の下では、同じ地球上に住む私たちは、否応なく相互依存関係に置かれている。貧困は紛争を招き、戦争には多額の費用がかかる。結局は、予防策を講じる方が安上がりなのだ。

 債務が焦げつき、借財人が破産した時には、それを帳消しにするというのが、まっとうな経済学のあり方である。これはすべての金融関係者が、皮肉を込めた有名なことわざで知っている通りだ。「あなたの馬が倒れて死んだら、馬から降りてあげなさい」。債務帳消しに伴うモラル・ハザードが問われているが、一千年に一度の免除とはほんのわずかなものに過ぎない。それよりも、個人や会社のようには決して破産を宣言できない最貧国に対して、彼ら自身に用途をコントロールさせず、一方で世銀・IMFの保証により、リスクがゼロの貸し付けを続けてきた先進国のモラル・ハザードの方が、ずっと深刻な問題である。

 私たちは米国で、経済学者や政治家に対してこうした議論に挑み、ついに打ち勝った。クリントン大統領は昨年9月、それまでの二国間債務の90%救済から、非の打ちどころのない全面帳消しへと、政策を前進させたのだ。英国政府も国際世論の動きを理解し、昨年末に二国間債務の100%帳消しを打ち出した。今は米・英・カナダが、債務問題で他の先進諸国を引き離している。

 次は、G8の新議長を務める日本が、7月の沖縄サミットを前に、一歩前に進み出る番だ。日本が重債務最貧40カ国に貸し付け中の債権総額は約1兆4,400億円だが、実際に免除にかかる経費はこの額の一部に過ぎず、完全な帳消しは可能なはずである。日本は金額ベースで見れば、最も寛大なODA(政府の途上国援助)の提供者である。しかし、債務救済が行われなければ、最貧国は自国の貧困削減や経済発展の代わりに、債務の返済に国家予算を投じ続けなければならず、援助の多くはむだに終わってしまう。

 日本の人びとは、国の外への関心が強く、新しいアイデアを取り入れることに長けている。ここで、最貧国が抱えた借金の100%帳消しを実施すること以上に、日本が世界中に存在をアピールできる行動はないだろう。そしてもちろん、日本はG8の議長国として、最も裕福な国々の行動全般に対しても責任を負っている。小渕首相と宮沢蔵相は、昨年のG8の約束を現実に移すために、かじをうまく取ることができるはずだ。

 昨年は私にとって、これまでの人生でもっとも特別な一年だった。ローマ法王に謁見、サングラスをプレゼントし、代わりに数珠をもらった。米の大富豪、デイビッド・ロックフェラー氏とは、ニューヨークのロックフェラー・センターの最上階で語り合うなど、ミュージシャンにはよほど縁のない世界に足を踏み入れた。また巷では、このキャンペーンを通じて、一般の市民運動家たちに信頼が置けるようになった。そして、ひそかに認めなくてはいけないが、彼らの訴えに耳を傾けるようになった政治家たちにも…

 2000年も、やるべきことが山積みだ。

 

© Bono 2000 (訳・待場智雄)